研究施設の現状と将来計画 299
8-4 機器センター
分子スケールナノサイエンスセンターと分子制御レーザー開発研究センターの汎用機器を統合して,平成19年4 月より機器センターが新たに発足し,2年の歳月が経とうとしている。機器センターの役割は汎用機器の維持・管理・ 運用と所内外の施設利用者への技術支援である。機器センターでは化学分析機器,物性測定機器,分光計測機器,液 体窒素・ヘリウム等の寒剤供給装置と,大別して4つ機器の維持・管理を行っている。また,いくつかの機器を化学 系研究設備有効活用ネットワークに公開しつつ,この事業の実務的な側面を支援している。機器センターの業務を円 滑に運営するために,センター長(併任)のほかに8名の専任技術職員(化学分析機器2名,物性測定機器2名,分 光計測機器1名,寒剤装置2名,化学系設備ネットワーク1名)と2名の非常勤事務職員(機器センター1名,化学 系設備ネットワーク1名)を配置している。平成21年度からは分光計測機器担当の技術職員1名が新たに配置され る予定になっている。技術職員が担当する機器は厳密に分担が区分けされているわけではなく,化学系設備ネットワー クの運用システムの支援にも参加し,分子スケールナノサイエンスセンターの保有する 920 M H z N M R や高分解能電 子顕微鏡の維持管理にも参加している。この2年間で機器センターの姿が整いつつあるが,平成20年度は新機器セ ンター事務室の化学試料棟への設置,化学系設備ネットワーク予約課金システムの改善,新装置の導入,明大寺地区 から山手地区への機器の移動,所内利用者への利用料の見直し,施設利用者向けの広報誌「機器センターたより」の 発行などを行った。
8-4-1 設備
化学分析機器は山手地区に N M R ,質量分析装置,元素分析装置,X線回折装置,円二色性分光装置など,物質合 成を行う上で最低限なくてはならない装置が配置してある。このうち,円二色性分光装置は山手地区の利用者が多い ため,平成20年度に明大寺地区から山手地区へ移設した。物性測定装置は明大寺地区に E S R ,S QU I D 磁束計,X線 回折装置,熱分析装置など,新たに開発した物質の物性を評価する上で必須の汎用装置を配置している。分光計測装 置は三種のパルスレーザーシステム,蛍光分光装置,紫外可視近赤外分光装置などの汎用機器を明大寺地区に配置し ている。蛍光分光装置は近赤外領域の蛍光を測定できるという特徴を持っているが,平成20年度は高感度光電子増 倍管を導入して近赤外領域の蛍光感度を大幅に増強させた。
研究所の予算を長期的な視野に立って計画的に運用するために,汎用性の高い装置は特定の研究グループではなく 機器センターに予算措置する。このことによって,機器の稼働率を高めるとともに,機器の最高性能を維持する。こ のような考え方に基づいて平成20年度は中村宏樹所長よりいくつかの新しい汎用装置を購入するための予算が機器 センターに投入された。山手地区には生体試料用世界最高感度の示差走査型カロリメータと等温滴定型カロリメータ を設置した。平成21年度に所内公開し,平成22年度より所外にも公開する予定である。明大寺地区には蛍光X線分 析装置を新たに設置し,平成21年度より所内・所外に公開することを予定している。また,ミクロ単結晶X線回折 装置の試料冷却装置と E S R (B ruker E 500)用デュアルモード共振器を新たに導入し,実験環境の向上を図った。さら に,老朽化したパルスレーザーシステムを補うために高パルスエネルギー型エキシマーレーザーを更新した。
機器センターの所有する機器は汎用機器が主であるが,高周波 E S R (B ruker E 680)のような特殊装置も保有してお り,共同利用を通して特色ある研究を展開している。この装置は購入後10年を経過して制御用コンピューターの老 朽化が著しいため,平成20年度に制御用コンピューターの更新を行った。このような特殊装置に平成21年度より波 長可変ピコ秒レーザーシステムが加わる予定になっている。この装置はピコ秒時間分解ラマン分光測定などの実験が 可能で,電子構造研究部門西グループより機器センターに移管され,平成21年度より所内・所外に公開の予定である。
300 研究施設の現状と将来計画
新しく機器センターに配属される技術職員がこの装置を担当する。機器センターは分子集団動力学部門の旧小林グ ループより移管された 15 テスラーの超伝導磁石を付属した希釈冷凍機を所有している。この装置は分子磁性体や分 子導体などを研究する上で有用な装置であるが,汎用装置とは言い難い特殊な装置の部類に入る。平成21年度より 大阪大学理系大学院の中澤康浩教授を物質分子科学領域の客員教授として招聘し,高磁場・極低温下における比熱測 定装置の立ち上げを予定している。
8-4-2 利用状況
機器センターの共同利用の形態は施設利用であるが,現状では化学分析機器と寒剤は所内の利用者が主であり,所 外の利用者は主としてX線回折装置や物性測定機器を施設利用している。平成20年度の所外施設利用件数は61件で, 平成19年度の51件
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に比べてやや増加した。施設利用の実態を把握し施設利用者と機器センターとの交流を図るこ とを目的として,機器センターの施設利用者向けの広報誌「機器センターたより」を発行した。施設利用者の利用状 況の統計を調べた結果,機器の利用頻度や頻繁に利用している所外施設利用者の実態も明らかになった。所外施設利 用者には半期に一件あたり2泊3日1回の旅費が支給されるが,一回で目的が達成されるような実験は非常に少ない。 年間30回も利用しているヘビーユーザーもおり,このような頻繁な施設利用者に対しては旅費の支給を2回に増や すなどの方策が望まれる。また機器センターの保有する機器,特に新しく配置された機器の特徴をホームページより も詳しく説明する欄を設けた。また,所内利用者と所外利用者一名ずつに,施設利用を通して得られた研究成果につ いて執筆を依頼した。「機器センターたより」は新たな施設利用者を発掘することができると考えており,毎年一回 発行することを計画している。
8-4-3 今後の課題
(1) 平成20年度に化学試料棟に機器センターの事務室を整備したのであるが,諸般の事情で平成21年度より南実験 棟一階へ移動することになった。平成20年度中に化学設備ネットワークの業務を主とする事務室が完成する予定で ある。明大寺地区の機器センター職員を全員収容できる事務室を整備するためにはもう一部屋必要であるが,実験棟 改修に伴ってスペースが確保できない状況になった。実験棟改修の終了する平成23年度には是非とも完成させたい。 (2) 現在,機器センターは極低温棟二階にインターネットその他が利用できる共同利用者控え室を用意している。こ の控え室は極低温棟とレーザー棟にある機器を利用する施設利用者によって有効に利用されている。南実験棟の地下 にある機器を利用する施設利用者にとって極低温棟はあまりにも離れすぎているので,実験棟改修が終了した後には, 南実験棟にも同様の共同利用者控え室を用意する必要がある。山手地区は所外施設利用者が少ないこともあって共同 利用者控え室が設置されていない。空き室はないので,部屋の再編が必要となるが,共同利用者控え室を作る努力を しなければならない。
(3) 現在,分子科学研究所の明大寺地区では平成元年に導入した神戸製鋼所の全自動液体ヘリウム液化装置を用いて, 年間約 4 万リットルの液体ヘリウムを供給している。この設備は導入後20年が経過しようとしている。この装置が 使用不能になるとき山手地区のヘリウム液化機から液体ヘリウムを供給することが計画されているが,この計画を実 行に移すためには明大寺地区で回収したヘリウムガスを山手地区へ移送するための地下埋設配管が必要である。平成 20年度は施設課に依頼して配管工事費用の見積りを行った。その結果,明大寺地区のヘリウム液化機を更新する費 用の約3分の一程度の費用がかかることが分かった。このほか,実際に埋設工事を行うためには道路や研究所外の土 地を通す必要があり,そのための許可や交渉が必要であり,時間がかかることが予想される。まずは,明大寺地区の
研究施設の現状と将来計画 301 液化機の更新を最優先させるべきであると考える。長期的な計画としては明大寺地区のヘリウム液化を更新した後に, 山手地区と明大寺地区を結ぶ回収ラインを敷設するのが最良の方策である。このような態勢をとっておけば,山手・ 明大寺どちらの液化機が故障しても,その間,稼動している液化機で液体ヘリウムを両地区に供給する態勢を整える ことができる。
(4) 山手地区の 500 M H z N M R は平成7年に導入された稼働率の高い機器であるが,すでに13年が経過している。 制御用コンピューターは,ハードウウェアの補修部品の調達が困難になっているのみならず,オペーレーティングシ ステム(OS )を含めたソフトウェアーの保守が受けられない状況になっている。今後,トラブルが発生した場合,復 旧が不可能であり,共同研究の推進に重大な支障をきたすことになる。この装置は化学設備ネットワークの更新機器 に指定されているので,予算がつけば更新可能であるが,このほかの手立ても考えておく必要がある。この他,マトリッ クス支援イオン化−飛行時間型質量分析計も高い稼働率で使用されているが,購入後9年経過しており,更新を計画 しておく必要がある。
*分子研リポート2007には平成19年度の施設利用数 57 件と記載してあるが,装置開発室の施設利用が含まれていることが後に なって判明した。